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活動実績
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活動実績

FDキャンプ2010でのグループ討議の成果

2010.10.18
P-sec FDキャンプ2010コーディネータ
                                                      神沼 靖子    
今年度のFDキャンプ2010は9月3日、4日に東京工科大学で開催した。今回のグループ討議では6つの課題に取り組んだ。これらの課題は、“①組織で取り組んでいるFDの課題”、“②実践教育の担当者にとっての課題”、“③産学連携における教育の課題”という3つの枠組みの中で展開された。①では組織の取り組みとして考えなければならない、「科目設計(Aグループ)」と「成績評価(Bグループ)」という切り口の課題が取り上げられた。②では「教師に求められる質は何か(Cグループ)」と「良い授業をするための教材の蓄積(Dグループ)」についてという切り口の課題で議論することになった。③では「産学連携授業で共有すべき情報は何か(Eグループ)」と「企業が求める即戦力の内容(Fグループ)」というテーマが課された。
以下は、各グループによる討議内容と成果物のあらましである。
 
Aグループの展開
 「情報システムの分析と論理設計」という科目を想定して、2時間内で設計に挑戦するという試みを実践した。議論に先立って、文教大学で使われている講義のシラバス事例(Web上のもの)と、J07-ISで公開しているLUの使い方についての説明があった。さらに、LUを使って展開している科目内容(課題シート)が配布され、この内容を改善するために、適切なLUを選んで科目設計をする手順が説明された。討議の結果、先ず2グループに分かれて意見交換をし、そのあと全員で議論しながら課題の科目を設計することにした。以下では、改善された科目案のポイントについて述べる(ただし、シラバスの展開は除く)。
 ここでは、議論で導かれた主たる内容について、“(1)講義設計を検討する際に考慮しなければならないこと”、および“(2)科目「情報システムの分析と論理設計」のポイントと改善案”に分けて整理する。
(1)講義設計を検討する際に考慮しなければならないこと
     科目設計では学科のカリキュラムの目標との関連が重要である。この課題の場合には、ビジネスの理解が狙いの科目なのか、システム開発が狙いの学科なのかによって違ってくる。
     前提科目、つまり受講生の既修得内容が講義設計に影響を与える。課題のケースだと、受講生がビジネスに関する知識があるか否かが影響する。
     受講人数が少なければ実習なども含められるが、多いと難しくなり、実際の教育方法を検討する際に、クラス規模が影響する。
     学習量と時間の関係で、他の科目との連携を考える必要がある。
     業務そのものをどうやって理解するかを検討する必要がある。例えば、コンビニというテーマを取り上げるならば、現状の観察から理解するボトムアップ的な方法と、コンビニビジネスとは何かから理解するトップダウン的な方法とがある。トップダウンの方法は経営情報学科ならばよいであろうが、システム学科ではボトムアップとなるであろう。
     実現可能な教育方法の範囲も授業設計に関係する。
     論理設計する対象システムの規模も授業に関係する。
     「業務分析と情報システムの設計」という科目名も考えられる。
(2)「情報システムの分析と論理設計」のポイントと課題シートの改善案
     ラピッドプロトタイピング(LU:0145)をレベル2(説明できる)とするならば、他の内容も含めることができるのではないか?
     ビジネス理解(LU:0604)を追加したほうがよい。
     IS設計と実装(LU:0144)は、紙芝居か絵コンテぐらいではないだろうか。この授業内で実装までさせるのは無理だろう。
     論理設計の範囲を検討する必要がある。
     前半はビジネスの理解、後半は情報システムの設計としてはどうか。ビジネスが中心であれば、分析までにする。いずれにしても、位置づけが重要である。
     各大学の教育方法に関連して、どこまでできるかを検討しないとシラバスの展開はできない。産学連携を導入するか否かも関係する。
     教育評価のフィードバックが重要である。
     「業務分析と情報システムの設計」という科目名も考えられる。
以上のコーディネータは宮川裕之氏(青山学院大学)、参加者は16名(このうち大学からは8名、産業界からは8名)であった。
 
Bグループの展開
“実践的教育における評価をどのように考えていますか”というテーマで、PBL教育に関する評価と学生の成績評価について議論し、共有できた認識をまとめた。議論に先立って、PBLとは何か、実践的教育評価の現状(IRSPBL’09や学習科学での議論など)が紹介された。以下は、主な話題と評価に関して共有できた認識である。
(1)何故PBLなのかの議論で認識されたこと
     新しいものを生み出す知識労働者の必要性が増した。
     ソフトウェア工学や情報システム学では、PBLが十分に体系化されていないので、システム開発理論の適用に向けて実践的知識が必要になっている。
     情報システムの仕事の作法を大学で具体的に教え、体系化する必要が出てきた。
(2)実践的な教育の評価はどのようになされてきたか
     大学では、ポートフォリオ(レポート、ビデオ撮影など)を基に質的分析がなされてきた。
     企業では、ポートフォリオ(日報、日々の観察)によりフィードバックがなされてきた。
     企業では、上司、部下、同僚による360度評価(技術的、概念的、人間的な側面)がなされている。
     PBLでは、相互評価により他者からどう評価されているのかを意識付けることが有効である。
(3)甘すぎる学生の成績評価に関して
     大学では通常、最後まで生き残ったかで評価している。ただし、経験だけで評価すると甘くなる。いろいろな経験を通して、概念やスキルが形成されているかをみる必要がある。
     企業では、“できた/できなかった”をはっきりさせる。それによって何処を努力すればよいかが分かる。皆が努力しているので、努力したか否かという基準では評価しない。
     企業による学生評価例として「○○先生のPBLを経験した」というケースがあるが、評価基準がないと、何をしているかが分からない。
     教師からのフィードバックがない実践教育は、教師の怠慢といえる。
     PBLの弊害の一つとして、企業で座学ができなくなっていることがあげられる。
(4)実践的教育の評価に関して共有できた認識
     基本的なレベルでのPBLの目標・概念について整理することが必要である。
     質的評価やフィードバックにより、地道に形成的評価を実施し、人材育成をすることが重要である。
     学生に対する管理能力の評価については、産と学とで思いのギャップがある。
(5)継続すべき課題として残っていること
     相互評価、組織の生産性、チーム学習/学習者個人の評価などについて。
     実在したケースの根源的問題の分析と解決の意志決定。また、そのための定量的・定性的な根拠を明確にすること。
以上のコーディネータは松澤芳昭氏(静岡大学)、参加者は11名(このうち大学からは2名、産業界からは9名)であった。
 
Cグループの展開
 “実践的教育の担当者に必要な質とは何でしょうか?”というテーマで、特に企業人が大学で「実践的教育」をするときに求められる「質」(例えば、「システム理論」を教える自信があるか、「顧客のシステムを開発した経験」があるかなど)について、どのレベルまで求められるのかなども含めて議論した。この議論のはじめに、「企業での経験の有無」や「大学で教えた経験の有無」によって、「実践的教育」の定義が微妙に異なることに気づいたため、求められる「質」についての議論に入る前に定義のすりあわせをしている。以下では、(1)“「実践的」に関する議論で話題に挙がったこと”、および“(2)「実践的教育の担当者に求められる質とは何か」について共有できた認識”について、それぞれ整理する。
(1)「実践的」に関する議論での話題に挙がったこと
     企業人、または企業経験者が教えれば「実践的」になるのか? 大学人が教えると「実践的」ではないのか?
     現場知を教えるのが「実践的」ではないか? 気づかせる教育が「実践的」ではないか? 社会人としての最低能力を身につける学習が「実践的」ではないか?
     「実践的」でないとは、「理論的」、「抽象的」、「応用できない」、「普遍的」などを意味するのか?
     「普遍的」な内容を、「実践的」な題材やプロセスを通して教えるのは、実践的な内容を教えているのではなく、実践的な「文脈」を与えているのではないか?
     失敗しないと「実践的」な教育ではないのか?
     失敗させる時間的余裕があるかどうかが重要であり、専任教員の方が失敗に対応することは可能ではないか?
(2)「実践的教育の担当者に求められる質とは何か」について共有できた認識
     自分の会社でのやり方が普遍的に通用するのかを確認できること。
     生きた題材を選択する際に「題材の規模の適切さの判断」、「対象学年、対象学科の考慮」、「モデル化、単純化して使う工夫」などができること。
     学生に気づきを与えられること。
     大学教員と授業の位置づけについてコミュニケーションできること。
以上、コーディネータは松永賢次氏(専修大学)、参加者は13名(このうち大学からは5名、産業界からは8名)であった。
 
Dグループの展開
 “実践的教育の教材を蓄積することは可能ですか?”というテーマで、実践的教育の教材として考えられるものや、その教材を利用するときの注意点などについて議論した。その中から、認識の共有が得られたものを列挙する。
     実践的教育の教材として、「PBLでテーマを設定するときに参考になるもの」や「PBLを進めていくときに参考になるもの」などがある。とくに、事例やケースは教材となるが、その分析・視点を含めたものでなければ適切な教材として使えない。
     実践的教育には、成功することだけではなく失敗を学ぶことも重要であり、そのためには成功例だけでなく、失敗例も教材として価値がある。
     仮想のテーマを作るときすべてが理想であると、そのテーマを実践しても問題が起こらずに成功してしまうので、生の事例を教材にしたほうがよいであろう。とくに、企業では事例の蓄積があるので、仮想のテーマでも教材となり得るが、実践経験のない大学教員の場合には、教材を作るのが難しい。生の事例を教材にしたい。
     教材を使う際に、理解に必要な基礎知識、ユーザ側とベンダ側の文化の違い(言葉の意味や暗黙のルールなど)について気づかせることが必要である。
     教育を進めていく上で、ポイントポイントにおいて十分なレビューが必要である。その際に「上司による視点、ユーザによる視点」など立場によって異なる見方、「ソフトウェア開発としての視点、情報システムとしての視点」など目的によって異なる見方をどう扱うか検討する必要がある。
以上のコーディネータは佐久間拓也氏(文教大学)、参加者は14名(このうち大学からは4名、産業界からは10名)であった。
 
Eグループの成果物
“産学連携授業において、関係者が共有すべき情報は何ですか”というテーマについて自由討論をしながら共有すべき情報をまとめようという発言があり、プロジェクタを活用して図を作成しながら全員で議論するという展開になった。得られた成果(共有すべき情報)は図E(非常勤講師と共有すべき情報)の通りである。
以上のコーディネータは駒谷昇一氏(IPA)、成果物同時作成者は今野陽子氏(公立はこだて未来大学)、参加者は13名(このうち大学からは6名、産業界からは7名)であった。
 
Fグループの展開
“企業における即戦力とは何ですか”というテーマで、IT業界をターゲットとした議論がなされた。“企業がいう実践・即戦力の定義は何か”、“何のためにFDをやるのか”についての議論では、参加者の思いをまとめている。企業が求める基準、“学生と社会人のギャップ”とは何か”については、重要な発言や興味深い発言を拾って列挙した。
(1)実践・即戦力の定義に関するまとめ
「実践」とは行動できるということ。「即戦力」とは、訓練や準備をしなくてもすぐに使える戦力である(図F-1)。しかし、全ての企業が新人に即戦力を求めている訳ではない。戦力として5年後、10年後に求められていることは、ユーザ企業側のIT力(超上流)である。新人には、何かができる技術的なスキルより、チームで仕事ができることを望んでいる。PBLはチーム力を育成できると考えている。
         Fig F-1.jpg
                     図F-1 即戦力とは
 
(2)企業が求める基準(学生と社会人のギャップ)に関する議論から
     企業では「知識がある」では不十分で、目的を達成できることが求められる。
     今の学生は知識不足ではなく、訓練不足ではないのか。入社して最初に教えることは、「①指定した時間までに成果物を提出する、②誤字脱字を自分で見つける、③わからないことは質問して解決する」の3つである。
     大学でも厳しい先生は提出期限を過ぎたら受け取らない。できる学生はちゃんとやるし、やらない学生はやらない(これは、どこも同じ)。PBLでは、やらなければ周りに迷惑がかかることに自ら気づくことができる。
     企業では、達成できないとダメなことは昔も今も変わらない。昔は企業に入ってから教えていたが、今は企業で教えている余裕がない。昔は3年間ぐらい新人扱いだったが、今は「1年で戦力になってね」と言われる。
     企業における質の合格ラインは、昔よりも厳しくなっている。
     プログラマを求めていない。もっと全体像を見させて欲しい。
     日本と欧米の教育の差が話題になるが、欧米ではもっと実践的な内容を教えている。日本ももっと実践的でも良いのではないか。
     中国やインドの追い上げはすごい。ハングリー精神があって、日本の学生のように夏休みに遊んでいる学生などいない。
     “対人関係能力”、“問題解決能力”、“ストレス耐性・コーピング能力”が重要である。
     学生と社会人のギャップ(図F-2)を埋めるのは、企業の新人教育である。
 Fig F-2.jpg
 図F-2 学生と社会人のギャップ
 
(3)新人教育について
         お金をもらって教育を受ける(問題→課題→目標達成)。したがって、ストレスを感じて当然である。
         技術スキル・ビジネススキル・管理スキルをパラレルに学ぶ。
        対人関係の構築を学ぶ(チームビルディングスキル)。
        PBLに、アイスブレークや対人関係訓練を加える。
        タイムマネージメントが重視される(仕事はパラレル)。
         失敗を成功につなげるようフィードバックする。
         “ビジネスの分かるエンジニア”/“技術の分かるビジネスマン”に育てる。
以上のコーディネータは榎田由紀子氏((株)CIJ)、参加者は13名(このうち大学からは5名、産業界からは8名)であった。
以上